横濱浪漫話

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連れて行かれる。本能的にそう感じた瞬間、握られていた右手が強く引っ張られた。男は強い力で私の右手を引っ張ると自分の方へ私の体を引き寄せた。しかし闇から現れた手は私を追ってさらに伸びてくる。恐怖に体を丸め、思わず男の懐に逃げ込むと、彼は着物の袖から札を取り出し、それを闇に向かって放り投げた。 札が青い炎に包まれて大きく燃え上がったかと思えば、闇の中から獣のような断末魔が聞こえ、そのまま闇が煙の様に消えていく。 「な、なんなの…」 この世のものではない何かを見た私は恐怖のあまり腰を抜かして地面に座り込んだ。金魚屋の男を見上げると彼は平然とした顔でさっきまで闇があった場所をただ見つめている。 「雲雀と言ったな」 「はい…」 「あきらめな。あれには敵わない」 「え?」 男の答えを私は呆然と聞くことしかできなかった。 「あれは悪霊でも物の怪でもない。奈落(ならく)、地獄よりももっと底の闇だ。その円と言う女はそこでお前さんのことを呼んでいる」 「そんな、なんともできないの!?」 「感じるだろう?自分の肉体が朽ちていくのを。人の体はあの呪いに耐えられない。呪いの呪符はお前の体を包み、少しずつ腐らせていく。そして最後には心も、魂さえも腐る」 「…そうなったらどなるの?」 「この世の肉体は朽ち果て、魂は奈落へと落とされる。あの骨と同じになるのさ」
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