横濱浪漫話

14/23

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
男の言葉に私は何も言えなかった。 どうすることもできない。私はどう足掻いても死ぬ運命なのだ。はっきりと余命宣告されたのに、私はその事実を自分の事としてすんなり受け入れることができなかった。 「嘘よ…そんなの嘘でしょ!あんたも他のみんなと同じ偽物でしょ!」 そう叫んでみても男は何か取り繕う様子も見せず、ただ淡々と「あきらめろ」と言い放った。 「俺を信じないのは構わないが、万物生きる者には等しく役目が割り振られている。お前が奈落に落ちる運命だっただけだ。悲観することはない」 「なにそれ…仕方ないって言うの?」 「そうだ、仕方ないんだ」 叫んで男に文句を言ってやろうかと思った。でも言葉はなにも生まれなかった。これ以上言葉にしてしまえば、聞いてしまえば、私はきっとさらに死を感じてしまうだろう。そうすれば狂ってしまう様な気がした。母の様に、心が壊れて、もう二度と戻らない様な気がした。 悔しくって地面に爪を立てると、爪の隙間に砂が食い込んで指の肉に痛みが走る。この痛みすら今の私にとっては生きている実感そのものだった。 立ち上がり、服についた砂を払うと男は私に背を向けて煙草に火をつけた。私は何も言わず蘭鋳の入った金魚鉢を持って屋台を後にした。 金魚鉢に入れられた金魚ですら生きていると言うのに、私に生きることは許されていない。微かな夢と希望を抱くことすら私の人生に許されないのだ。 穢れた子は不幸しか呼び寄せない。なら今の私が不幸なのも自分自身のせいなのかもしれない。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加