横濱浪漫話

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「奥様、雲雀様はもう…」 タキ子さんの言葉に母は眉一つ動かさず「もうなに?」と言い放った。タキ子さんは驚いた様に固まり、まるで化け物を見るかの様な目で母を見つめている。 母はふらつく足で私の方に近寄るとあたりを見回し、私ではなく金魚屋に視線を向けた。 「ねぇ、この子死ぬの?」 そう問われた金魚屋は黙ったまま小さく頷いた。すると母は力が抜けた様に畳の上に座り込み「よかった」と小さく呟いた。 「よかった。もう疲れてたの。ようやく解放されるのね…」 後ろでタキ子さんが「奥様!」と声を荒げたが、私は痛む手を上げて彼女の言葉を遮った。 わかっていた。私のせいで母が病んでいたことくらい。母の幸せを奪ったことくらい。だから母が私の死を悲しんでくれなくてもいいのだ。私はただ死ぬ前に母に一目会いたかっただけなのだ。 「お母さん…ごめんね…」 生まれてきてごめんなさい。母にそう言った瞬間、私の体に激しい痛みが襲った。指先を見ると黒く変色していることに気がつく。そして体がバラバラに引き裂かれる様な感覚に悲鳴を上げた。 「なんとかできないんですか?」 タキ子さんがそう言って金魚屋に摑みかかると母が彼女を突き飛ばした。
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