横濱浪漫話

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「この子は死ぬ運命なの!生まれてきちゃあいけなかったの!知ってる?この子ね、生まれてきた時灰にまみれて生まれてきたのよ?人間じゃなあない…これは物の怪、化け物よ」 母の蔑んだ目が視界に入った瞬間、母を隠す様にして金魚屋の男が私の目の前に現れた。近くで見る彼の瞳は髪の毛と同じ黄金の色で、まるで宝石の様に美しかった。手を伸ばせば届きそうなのに、痛みで体は言うことを聞いてくれない。 「憐れな人の子よ。もう十分苦しんだ。もういい。救えはしないが、楽にしてやろう」 彼はそう言うと指先を私の額に当てた。その指先が赤く光ったかと思えば彼の皮膚が少しづつ鱗に包まれていくのに気がつく。「彼は人間ではない」そう思ったのも束の間、体の痛みが引いていくのを感じた。それと同時に体の力が抜け、息をするのが億劫に感じる。 あぁ、死ぬのか。 そう本能的に感じた瞬間、棚に置いてあった金魚鉢が勢いよく割れ、水の中から何かが現れた。それは一直線にこちらに向かって飛びつき、金魚屋の男の腕に噛み付いた。その瞬間、彼の腕から血が吹き出し、彼は驚いた様に視線を上に向ける。 彼の腕に噛み付いていたのは小さな赤い龍だった。割れた金魚鉢を見てもそこにあの金魚の姿は見つからない。まさかあの金魚がこの龍に化けて出たとでも言うのだろうか。
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