横濱浪漫話

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こんなに死を望まれている私が生きていていいのだろうか。生きることを選んでも母は喜ばないだろう。 「…私なんかが生きていていいの?」 母を見ながら男にそう尋ねると「生きることが情けないと思うならそれは大きな間違いだ。一番情けないのは己の意思を押し殺すこと。自分の意思もなく生きているのは死んでいるのと変わりはしない。大切なのはお前が生きたいかどうかだ」と言った。 そうだ。私はずっと願っていた。生きたいと強く願いながら、死んでくれと願う者の言葉にずっと耳を傾けていた。 私は馬鹿だ。呪われていようが、汚れていようが、私は生きたいと願っていた。生きたいという至極真っ当な思いすら口に出すことが罪深いと思っていた。でも私はこの世に産み落とされてしまったのだ。だとしたら私は生きたい。 この足でいろんな場所に行ってみたい。色んな人と会って、見たこのない景色を見て、人生について知りたい。それはわがままな事だとずっと思っていた。 どうする?男の言葉に私は泣きながら頷いた。 「生きたいっ…生きたいです…」 男は私の言葉を聞くと龍に向かって「情けをかけるのはこれが最後だ」と言った。龍はその言葉がわかるのか彼の腕からゆっくりと口を離した。 「口を開けろ」 「え?」 「俺の血を分け与える。最初は辛いが時期に慣れる」 意味がわからなかったが私は最後の力を振り絞って口を開いた。龍に噛まれた傷口から彼のちが溢れ出し、その血が私の顔に降り注ぐ。口に入った彼の血はその肌からは想像も出来ない程熱かった。
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