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両親が呪いを信じるのも無理がないことだろう。
私が生まれた日は桜が満開の小春日和だったらしい。しかし私が産み落とされた瞬間、晴れ間から大粒の牡丹雪が降り、家で飼っていた犬も猫も、鯉も鶏も一匹残らず死に絶えたのだ。まるで魂が抜かれるように動物達は絶命し、屋敷にいた使用人の中には恐ろしさのあまり逃げ出した者もいた。
五つ年上の兄はまだ幼い頃、その話を面白おかしく私に聞かせるため時折この小屋に訪れ「お前は穢れた子供なんだ」と言い、私のことを殴り飛ばした。
兄の言うことに私は疑問を覚えなかった。物心ついたときから母に抱きしめられたこともない私は愛されていな事実を嫌でも気がついていた。
私は穢れている。きっと両親は私が早く死ぬ事を願っている。そう思う度に死にたくなった。でも自分で命を立つ勇気もない。
「雲雀様は死んだりしませんよ」
「そうかしら。その気になったらうちの両親なんて人くらい殺せるわよ」
父は横濱銀行の頭取をしており、その力は絶大なものだ。金を使えば私を事故死に見せかけて殺すことなど簡単だろう。母は気が弱く臆病だからきっと父の言うことには逆らえない。タキ子さんも優しくはしてくれるが所詮はただの使用人だ。私を守ることはきっと無理だろう。
ため息を吐き、部屋に一つだけある小さな窓から外を覗くと、庭に兄と数人の女学生たちの姿が見えた。兄は顔だけはいいから女性たちに好意を寄せられやすい。大学に進学してからはさらに周りに女性達をはべらせる様になっていた。
綺麗な袴姿の女学生達を見ていると自分も大学に行きたかったという、妬ましい気持ちが心の奥から湧き出てくる。父は必要最低限の教育しか私に受けさせず、なるべく人目につかないよう家の中に閉じ込めた。もちろん横浜以外の外の街に出たこともない。
兄に気づかれないように女子学生達の様子を見ていると、みんなそれぞれ手に何か持っていることに気がついた。小さな袋のようなものを片手に楽しそうに話し込んでいる。
「ねぇ、あれなにかしら?」
外を指差しタキ子さんにそう尋ねると彼女は眼鏡をして窓の外を覗き込んだ。
「あぁ、金魚ですね。三日前金魚売りの男が横浜の街に来たんですよ。金魚売りの傍ら、お祓いもしてくれるみたいで噂になってるんですよ」
「お祓い?」
「はい。なんでも人についてる悪霊や物の怪を祓うことができるとか」
「なにそれ。胡散臭いわね」
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