0人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
もしその金魚屋が本当に祓い師だとしたら私の呪いをなんとかしてくれるだろうか。この呪いさえなければ私もあの女学生達のように自由に生きて、誰かと恋をしたり、好きな仕事に就いたりできるのだろうか。
そんな淡い夢を抱きながら窓の外の兄と目が合った。私は急いで目をそらしたが、兄はそんな私を身逃がさず、小屋に向かって歩いてくる。また何か嫌味を言われるのだろうか。そう思ってぎゅっと両手に拳を握ると、窓の柵に兄が手をかけて中を覗き込むようにして身を乗り出した。
兄はかぶっていた帽子を脱ぐと、少し乱れた前髪を整えながら部屋の中を見回し「相変わらず辛気臭いな」と鼻で笑った。
「…何か用?」
「用?お前に用事なんかあるわけないだろ?穢れた子のくせに」
兄の言葉には最大限の軽蔑と蔑みが含まれているように感じた。私は彼の顔を直視することができず、ただ俯くしかできない。しかし耳は恐ろしいほど敏感に彼の冷たい言葉を聞き入れていた。
「お前さっきあいつらのこと見てただろ」
「なんのこと?」
「女学生のことだよ。羨ましいのか?穀潰しの分際で外の世界に憧れてるのか?」
「見てなんかないっ」
「嘘つくなよ!お前のそういう所が気に入らないんだよ!お前さえ生まれてこなけりゃあこの家は平和だったんだ!」
兄の言葉に私は泣き出しそうになった。でも泣いてしまえばまた兄を苛つかせて手を上げられるかもしれない。
兄がどうしてこんなに私を憎むのか、昔は分からなかった。でも大きくなるにつれて、私のせいで高屋敷家が崩壊していった事実が嫌でも耳に入ってきた。
母は私を産んでからしばらくは呪いがあっても愛そうと努力していたらしい。全ての時間を私に費やし、私の呪いを解こうと必死だった。しかし母はその過程でどんどん病んでいった。呪いを解くためだと怪しい宗教に頼ったり、胡散臭い仏具を買い込んだりして私をなんとか救おうとした。
最初のコメントを投稿しよう!