序章 権力者たちのピクニック

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序章 権力者たちのピクニック

 白く細い指が、花茎をつまんで編みこんでいく。 「こうやってねじって、前の花と寄りあわせるようにして……」  どこまでも続くように見える青空の下に、女性の声が楽しげに響いた。「ほら、できたわ」  彼女の(まわ)りには、春の野花が絨毯(じゅうたん)となって広がっている。タンポポ、黄いろいカタバミ、控えめなスズラン、そしてシロツメクサ。王都の西にある名もない野原のひとつである。  男性たちの歓声が、とあがった。 「みごとな出来ばえですなぁ!」 「花冠といえど、陛下の手にかかりますと金細工のようでございます」 「しかし、いかな冠も、上王陛下のお美しさ、衰えを知らぬ可憐さにはかないません」  男たちは歯の浮くようなお世辞を言い、口ぐちに「陛下」と呼ばれる女性を()めそやした。 「まぁ。お上手だこと」女性はきゃしゃな手を口もとにあてて、ころころと笑った。 「上王陛下だなんて、堅苦しい呼び名はやめてちょうだい。五節(竜族の六十年)も老けた気がするわ」 「まさか!」 「陛下に限って、(おとろ)えなどとは無縁でございます」 「そうかしら?」 「まったくそのとおり。ご夫君となられる男性は、よほど前世で功徳(くどく)を積んだのでしょうな」 「まぁ……そのお言葉、夫に聞かせてやりたいわ……」  茶目っ気のある口ぶりで、女性は花冠を胸もとに抱えた。美しく高く盛った(とび)色の髪から意図的に垂らされたひと房が、豊満な胸もとにかかっている。目はヤグルマソウのような青だった。 「でしたら、名前で呼んでいただきたいわ」  取りまきの男性たちが、たがいに探るような視線を交わした。 「では、おそれながら――」  いかにも世慣れた風情の一人の中年男性が、儀礼的なお辞儀をしてほっそりした指に口づけを落とした。 「上王、陛下」 「陛下はやめてと言ったのに!」女性、つまり上王レヘリーンは声をあげて笑った。
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