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「そのような噂は耳に入っておりますな」エンガス卿は、やはり感情の読めない顔でそう返した。「向上心が高い若者であると」
「わたくしたち一度、西部領にも行ってみたいと思っていますのよ。ね、ハズリー?」
レヘリーンの笑顔は輝くばかりだった。
「わがきみのお望みとあれば、喜んでお伴したく」ハズリーと呼ばれた男が、にこやかに答えた。レヘリーンをはさんだ逆側に座るエサルが、犬の食べ残しでも見るような目つきになっている。
(そういうことね)
うすうす、そうではないかと勘繰っていたところに確証が得られて、リアナは苦々しくも納得しないわけにはいかなかった。(愛人から、五公の座をおねだりされたってわけ? それでわざわざ、タマリスまでやってきたの??)
それ自体は、別にいい――タマリスにとどまる貴族たちの多くが、似たような政治的野心を持っているのだから。ただ、何年も素通りするだけだった王都にわざわざ立ち寄った理由がそれだということには反感を感じずにはいられない。息子たちのためでなく、愛人のためだとは思いたくない。リアナはぎゅっと拳を握りこんだ。
「五公の選定については、王とわれわれだけでなく、グウィナ卿、ナイル卿、エピファニー卿をふくめた五名での採決が必要だ」
エサルが不機嫌そうに告げると、レヘリーンは気にしたふうもなくうなずいた。「もちろん、そうですわね」
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