序章 権力者たちのピクニック

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「リアナ陛下。……最近は診察を受けておられないと、アマトウが案じておりましたが」 「忙しいの。時間が惜しいのよ、エンガス卿」  エンガスのガラス玉のような薄青い瞳は、猛禽(もうきん)に似ている。リアナはなんとなく後ろ暗い思いで目をそらし、老大公の長衣(ルクヴァ)の胸あたりに落ちているシロツメクサの葉を見ていた。 「それに……妊娠のことは考えていないわ、少なくとも今年はね。フィルも子どもを望んでいないし」 「……」  老大公が、白いひげのある顎に手を当てて、なにか考える様子になった。  リアナはそっと付けくわえた。「……そもそも、子どもができるかどうかもわからないわ。だってわたしは……」  不気味な半死者、デーグルモールなのだ。おそらく、その血の半分は。そしてこれまでにも何度も、竜族とは思えないおぞましい回復能力を見せていた。愛する男たちの血を(かて)にして――そう考えて、思わず身震いする。  老大公の目線が自分に刺さっていることを、リアナは痛いほどに感じた。 「あなたの存在には、大きな意味がある」エンガスは言った。 「実験動物として?」  皮肉げに問い返すと、黙って首を振られる。 「……いずれ、お分かりになる。近いうちに」思わせぶりなことを言うと、老大公は去っていった。
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