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そして、側近や随身をのぞいては、フィルとリアナだけがその場に残った。どうにも腹にすえかねるので、リアナは〈竜殺し〉と呼ばれる男を木立のほうへ引っ張っていった。ひと目があっても本人は気にしないだろうが、リアナは立場上、夫の対面が気になるのである。
「どういうつもりなの」
ひょろひょろしたシラカバの樹のあいだで立ちどまった。指を突きつけると、フィルは「どうって……?」と、きょとんとした顔になった。レヘリーンが選んだらしいモスグリーンのジャケットはたしかに似合っていたが、砂色の短髪もあいまって、村の素朴な青年にしか見えない。
「レヘリーン卿のことなら、俺なりに旧交を温めているつもりだけど」
「旧交!?」リアナはすごんだ。「あなたを棄てた母親よ! あんなふうに愛想を振りまく必要なんてぜんぜんないわ」
「昔のことだよ」フィルは肩をすくめた。「いろいろあっただろうけど、根は悪い人じゃないんだ」
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