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「養子に出すだけじゃ飽き足らず、あなたのことを名前ごとなかったことにしたのよ! 自分が生んだ子どもの身体に、見えもしない器官がひとつ足りなかったくらいで。悪意がなければいいっていう話じゃないでしょ!?」
いちおうあたりをはばかって小声にはなっているが、リアナは怒りがおさまらない。この場にデイミオンがいれば、彼女に肩入れしてくれたに違いないのに。歯がゆくなる。
「俺としては、いまの自分に満足してるし、彼女に恨みもないんだけど……」
フィルはリアナを腕にかこい、なだめるような苦笑になった。「でも、あなたが俺のために怒ってくれるのは嬉しい」
シラカバの細い幹にそっと押しつけられ、剣だこのある固い手のひらが頬にふれた。男性の熱量が近づく。よく見ると整った顔だちが、さらに間近に迫ってくる。
ハシバミ色の目がうかがうように合わされたかと思うと、口づけられた。
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