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「この茶番を、いったいどうしろっていうわけ?」
この場でもう一人「上王陛下」と呼ばれるべき女性――つまり、リアナ・ゼンデンが不機嫌に呟いた。レヘリーンと取りまきたち同じく野原に座した姿勢で、近くに生えるシロツメクサを怒りにまかせてぶちぶちとちぎっている。竜族の長い青年期のあいだにも、一度も花冠など編んだことはないわれらが主人公である。
もっとも、今では「上王」と呼ばれることはめったにない。現在の公的な立場は、「王配にして代王」、対外的にはオンブリアの君主だ。王としての在位は短かったリアナだが、その後、黒竜王デイミオンの妻として、また上王の立場で、国政に深く関わってきた。名実ともに、オンブリアの支配者たる自覚があるリアナである。
しかし、そのリアナに普段の威厳はなかった。竜たちの王にはおよそ似つかわしくない、百姓娘が収穫祭のために用意したような服を着せられていたためだ。胸もとが開いて盛りあがったブラウスに、きゅっと腰をしぼったワンピース。刺しゅう入りのエプロン。これから乳しぼりにでも行くなら、まさにうってつけの服装だろう。
隣から、リアナとおなじくらいうんざりした調子の声が降ってきた。「まったくだ」
「エサル卿」
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