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「グウィナは優しいわよね」
「うんぼく、グウィナ好き」マルはバケツのなかをかきまわしながら言った。「お母さまの次に好きかな」
「そう……」
リアナの目線の先には、もくもくとザリガニを釣っているフィルの姿があった。タマリスで母親と歓談していたフィルだが、「興味も関心もない」と後で言っていた。けれど彼だって、母親が一番好きだった時期があったに違いないのに、と残念に思う。レヘリーンは自分の選択で、子どもの愛をおろそかにしてしまったのだ。願わくば、この子の愛情が行き先を失いませんように。
「ぼくロープを十種類も結べるよ。ヴィクに習ったの。火をおこすのは、こんど、ナイムが教えてくれるって」
この年頃の男の子特有の、自慢とも報告ともつかないとりとめないおしゃべりを、リアナは目を細めて聞いていた。
「いいお兄さんたちね」
「それで青いザリガニは、ほんとはナイムが見つけたんだけど、ぼくに捕まえさせてくれたんだ」
「そうなの?」
ふむ。どうやら、ナイムの成長のあとというわけだ。リアナは頬づえをつき、男たちのお遊びを見まもる作業に戻った。水面に反射した光がちらちらとまぶしく、軽い頭痛をおぼえた。しばらく前から頭痛を感じることが増え、〈呼ばい病み〉かと思っていたが、どうも違うらしい。エンガス卿に相談しなければいけないのかと思うと気が沈んだ。
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