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♢♦♢ ――フィル――
リアナの背をおして邸内に入れたところで、フィルバートははたと気がついた。これまでの滞在で使っていた場所は、領主夫妻の部屋として整えられていたものだ。婚姻関係のない彼女と自分が、そのままそこで眠るわけにはいかない。
どうやらリアナもそれには気づいていたらしく、周囲に別の部屋を打診していた。
「客間のほうは……」
「俺とナイムが使わせてもらってるよ」と、ヴィクが答える。
「たしか庭に面したデイルームが……」
「私が使っていますよ。あそこはおじさんには暖かくてねぇ」リックがにこやかに、しかしわざとらしく言った。
「もちろん、お望みなら喜んであなたにお譲りするが、寝具からおじさんの匂いがしないかなぁ。心配だ」
リックの意図は、ワイングラスのなかにワインが入っているのと同じくらい明らかだった。フィルはあきらめて、「俺はどこでも寝られるから。あなたは領主の寝台をつかって」と言った。
リアナは「フィルにまかせるけど、よければ寝台は半分使ってね」と言い、周囲に就寝のあいさつをして、部屋へ向かっていった。ヴィクとナイムもマルを連れ、満足げにあくびをして去っていく。
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