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フィルは複雑な思いで見おくった。いつもの彼女なら、「フィルが床で寝るなら自分も寝台は使わない」くらいの強気は言う。意地の張り合いをしたいわけではないが、肩透かしをくったせいでよけいに気にかかる。
「添い寝してやらないのか? やせ我慢もいいが、あとで辛くなるぞ」
息子の内面を見透かしたように、リックが言った。フィルも憮然として返す。
「もう、夫婦じゃない。彼女がデイミオンを選んだんだ」
「だとしても、疲れきっておまえの腕のなかに戻ってきたんだろう? 年老いた猫みたいに静かだったじゃないか、今日の彼女は」リックは壁に肘をつき、寄りかかった。
「……北部へは強行軍だったみたいだし、代理王の仕事もある。疲労はあたりまえだ」フィルは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。「俺になんとかできることじゃない」
「でも、なんとかしてやりたいと思ったんだよな」リックは優しく言った。「だから、期間限定の夫になった」
「……だけど、無駄だった」フィルは肩を落とした。「支えてほしいとリアナは言ったけど、俺は、それを断った……」
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