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あんな指輪を渡さないほうがよかっただろうかと、フィルは思った。彼女の身がそんなに心配なら、護衛として側についていればよかったのだ。だが、彼女がデイミオンを取りもどし、その胸の中に飛びこむのを見るのは絶対に嫌だと思った。それを自分に望むリアナは、あまりに身勝手だと思った。
「俺は、そういう愛しかたはできない」
リックは一歩、息子に近づき、その肩にぽんと手を置いた。「おまえの決めたことだ。それでいいさ」
「あなたはどうなんだ?」フィルは迷いながら尋ねた。「昔、妻がいると言っていただろう。でも、俺がここに来たときには、もうその女性はいなかった」
「人間の女性だったからな」リックはやんわりと答えた。「醜く年老いていくのを見られたくないと言って、俺の側から去っていった。彼女の葬式で再会したよ」
ずいぶん前にも同じ話をしたことがあったから、そのこと自体は知っていた。
「後悔してるのか?」
「ああ」リックは、子どもたちには見せない、どこか冷たく整った顔でうなずいた。「ふたつの心臓が鼓動をやめるまで後悔するだろう。……だがその後悔があるおかげで、おまえたちと出会えた。あの託児所は、罪悪感を軽くしたくてはじめたようなものだったからな」
「俺は嫌だ」思わず本音が漏れた。「あの人が死んだあとの俺の人生を、想像したくない」
「でも、後悔するんだよ。本当だ」
養父の顔は奇妙に平静で、感情というものがすべて欠けていた。
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