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式典の進行と警備をチェックして、服装をあわせて、とやっていると時間が過ぎていった。フィルが自身の部屋に戻ると、すでになかば灯りが落とされ、リアナは広い寝台の片側で眠っていた。ほっとしていいのか、残念に思うところなのか。
屋敷にいるときしか使わない夜着に着替え、寝台の隣に身をすべりこませた。規則的に上下する肩に、夏用のケットを引きあげてやる。普段のリアナなら、彼を質問ぜめにするためだけに起きているだろう。
二人の家を出てからどう過ごしていたのか。デイミオンの救出劇は知っていたのか。……問われても答えるつもりはなく、たぶんはぐらかすだけになってしまっただろうが。
(でも、もう寝てる。……疲れていたんだな)
「疲れたの」、と言ったときのリアナの、その声のかぼそさ。養父のうつろな声のひびき。その二つが、交互にフィルの脳をよぎった。
「リックみたいに、あなたを失ってから後悔したくない」
フィルは、眠る彼女に切なげにささやいた。「でも、あなたの夫にもなれない。……リア、俺はどうしたらいいんだろう? 教えてくれ……」
それから目の下の影をなぞり、髪をなで、匂いを嗅いだ。どうしようもなく不安になり、眠りに落ちるまでずっと彼女を抱きしめていた。
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