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そのリックは、引退後もなかなか人気のある元領主であるらしく、お菓子の名前になっていたりした。(『リックのお気に入り』という名前だった)フィルのほうはさらに人気で、〈ウルムノキアの救世主〉〈ヴァデックの悪魔〉といった、彼の有名な二つ名がついた人形や装飾具が棚いっぱいに並んでいた。数は少ないながら白竜の王リアナを模したものもあり、短期間とはいえ領主の妻として認知されていたことには複雑な感情をおぼえた。
竜族の婚姻として、めずらしいことではない。だが、たった一年で終わってしまう結婚を、領民たちはどう思うのだろうか。……
もの思いにふける間もなく、領主としてのフィルバートのあいさつがはじまった。リックの助言通り、簡潔だが心のこもったものだ。
「兵士たちは、みな英雄だった。私、フィルバート・スターバウだけでなく――ひとりひとりが救世主だったし、敵にとっての悪魔だった」
長衣でこそないが、ゴブラン織りのみごとなダブレットを着て髪をととのえたフィルは、どこから見ても立派な領主だ。それがリアナのひいき目でないことは、広場にあつまった人々の顔つきでわかる。
「だが、竜の子の長い生ですら、戦禍の記憶は重すぎる。兵士の魂をたたえ、同時に、子どもたちにとっても戦争のない時代であるよう祈ろう……」
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