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「花を編むのがお上手でいらっしゃいますね、レヘリーン卿」
にこやかに場に入っていきながら、リアナは周囲にさりげなくにらみをきかせた。この場で「上王陛下」と呼ばれるべきは自分一人だ、という無言の主張である。取りまきの何人かは、露骨に目をそらした。リアナは胸中で悪態をつき、彼らの名前をしっかりと記憶しておいた。
「まぁ、陛下。その服やっぱりお似合いになるわ。わざわざイーゼンテルレからタマリスまで運ばせてきたかいがあったわ」
レヘリーンは、とても三人の子を産んだとは思えない、無邪気そのものの声で言った。「ね、マル……いいえ、フィルバート卿?」
「ええ」立ちあがりざまに、フィルバートがにっこりと返した。違う名で呼ばれかかったことなど、まったく気に留めていないというふうに。そしてリアナをエスコートする形で隣に座らせる。
砂色の短髪に、本心の読みづらい笑顔。〈剣聖〉とも〈竜殺し〉とも呼ばれる、リアナのもう一人の夫だった。期間限定の、というただし書きはつくが。
「オンブリアのドレスも素敵ですけど、あなたにはイーゼンテルレ風の服も似合うな」とろけそうな笑みとともに、フィルが言った。
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