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「ね、そうでしょう? わたくし、服を選ぶ目にだけは自信があるの」
「閣下の服も、よくお似合いですよ」
「ありがとうフィルバート。あなたもモスグリーンのジャケットがよく似合うわ。あなたに合う色だと、前から思っていたのよ」
「光栄です」
生物学上の母と息子は、にこやかに会話を交わしている。リアナは見知らぬ者たちを見るような思いで、彼らを凝視していた。この二人のあいだに、親子らしい情が通っているなどとはとうてい信じられなかったからだ。……フィルバートが名乗る家名は、「スターバウ」のみ。デイミオンと同じ出自を持ちながら、エクハリトスの家名を名乗れない原因は目の前の女性にあった。
「本題に入っても構いませんか、レヘリーン卿?」
いちおうは礼節をたもってリアナが尋ねると、レヘリーンはかわいらしく首をひねった。
「本題と申しましたら? なんだったかしら」
「五公会です」リアナは力をこめて言った。「今日は、定例の会合日。打ち合わせる予定の議題が山積していますので」
本来ならば、王城のいつもの小部屋が会合の場となるはずだった。それを今朝、レヘリーンの突然の来訪によって中断されたのである。周遊旅行中だったイーゼンテルレから山ほどの土産物をもって現れた高貴な女性は、「息子の顔を見に来ましたの」と告げたが、城内の誰一人それを信じる者はいなかった。
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