アベニールという名の、置屋

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広間の壁にはいくつも通路に繋がるドアがある。 それぞれのドアの前には黒服が立っている。 気の合った男女が次々に連れ立っていくのだ。 一夜限り。 名前も名乗らずにーー ーーここはそういう大人の社交場。 花蓮たちのいるアベニール以外からも、女たちが呼ばれているらしい。 会場内の煌びやかな招待客は男女合わせて100名近くいた。 相手が誰でも、断るなと言われている。 楽しく気分よく過ごしてもらうこと、望まれればプロとして一時の最高の満足を提供することーーそれがアベニールの女たちの仕事なのだ。 ゴドーがアベニールに持ってくる仕事は、身元のしっかりしているセレブ相手の仕事ばかりだから安心だと花蓮は他の女たちに聞いていた。 妊娠はしないように、体質に応じてピルを飲んだりIUDを付けたりしてカラダを管理する。 年相応の教育も、教養も、美しい歩き方や会食の仕方から立ち居振る舞い、会話の展開まで。なにより、ベッドでの目線やカラダを美しく魅せる方法もーー 毎日の食事や運動での女性らしいしなやかで柔らかいカラダの作り方もーーゴドーを中心としたアベニールスタッフや外部講師に叩き込まれてきた。 アベニールの部屋の中では女たちは基本バスローブで過ごす。 ゴドーは毎日、アベニールの住人のカラダのチェックをしに各部屋に来る。 確認もあるが、『見られることで女はどんどんキレイになる』んだとか。 アベニール以外にも、いくつか置屋があると他の女たちが言っていた。 花蓮たちは、女としてーー商品としてランク付けされているのだ。 アベニールはその中でも上位にあって、『Sランクのしか来られないの』と花蓮は言われた。 『あなたは本当に運が良かったわね』 花蓮がその意味を知るのは、ずっと後になる。
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