アベニールという名の、置屋

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「花蓮。教えとくから覚えてね。 そうそうたるメンバーだけど、取り敢えず絶対押さえるべき方を。 …まず、あそこにいるのが主催者の椎名様。うちとは一番パイプの太い、超お得意様の1人よ」 開始早々、シャンパン片手にこそっと近づいてきた茜が耳元で囁く。 「最近勢いのある、MM社ーー知ってるわよね? そこの経営者。 あの若さであの地位を自力で一代で手に入れた。 運も実力も野心もある。 成り上がりだけど、柔和な見た目と違ってなかなか頭の切れるーー怖い男よ」 花蓮が視線を向けると、黒の仮面をつけた細身で上品そうな男がシャンパンを持って談笑していた。 気安い雰囲気で椎名が話している相手は金の仮面をつけた大柄で派手な雰囲気の男で、仮面で顔がよく見えないが、2人とも30前後のようだ。 匿名のパーティーとはいえ、失礼のないように花蓮もあらかた資料と写真で全員の顔と名前と会社と業種などは記憶して来た。ーーとはいえ、仮面もつけている上、写真と実物とではやはりイメージが全く違う。 視線に気づいたのか、椎名と話していた金の仮面の男と花蓮は一瞬目が合ってしまった気がした。 花蓮は反射的にパッと視線を逸らしてしまう。 茜は軽くグラスを掲げ、優雅に微笑んで見せた。 「…こら花蓮。 美しく微笑んで上品に目礼でしょ」 茜が笑いながらこそっと言う。 「…ごめんなさい」 「あらら…。 花蓮のその初々しい反応に惹かれたみたい。 あの人はあの世界的にも知られてるZNNグループの跡取り息子。 大の女好きで有名な大賀様よ」 ーーえ 花蓮がちらりと顔を上げると、大賀が大きな歩幅で悠然とまっすぐ自分に向かって歩いてくるところだった。その後ろから椎名も歩いてくる。 茜ではなく、自分とばっちり目が合っている。 その目はギラギラしていた。 ーーあ… 花蓮は思わず逃げたくなってーーいけない、と意識して背を伸ばし、赤の仮面をつけた顔を上げ大賀を見る。 ヒールを履いた足と腰にグッと力を入れた。
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