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「…う…そ…」
「あ、ねえ!」
「…?」
ボソッと呟かれた椎名の言葉は、大賀の声にかき消された。
大賀は手を軽く上げてスタッフを呼び止めている。
「赤の部屋まだ空いてる?」
「はい、空いております」
「やった。そこ使うよ。
アルマンドを」
「かしこまりました、すぐにお持ち致します」
恭しくお辞儀するスタッフに低く告げると、大賀は当たり前のように花蓮の腰に手を回して優しく引き寄せた。
触れた肌のぬくもり。ゴドーとはまた違う硬く筋肉質なカラダに、花蓮の胸がドクンと鳴った。
茜は大賀と椎名に軽く頭を下げ、スッと離れて行く。
大賀が花蓮の手からオレンジジュースを奪い、そばのテーブルにコトンと置いた。
「おいで」
花蓮のドレスの深く開いた背中に、大賀の大きな手が触れる。
女慣れしている、意味深な指使いと熱を持った手にゾク…と花蓮の肌が粟立っていく。
「…っ」
一瞬、椎名が立ちふさがるように花蓮たちの前に立つ。
「ん?なんだ?健人?
あー、…花見会は匿名がルールだったな」
大賀はくすぐるように花蓮の背中ーー素肌を絶え間なく撫でながら、椎名を見つめている。
「…っ」
くすぐったくて、花蓮は鼻から抜けそうになる声を我慢した。
「…っ…」
椎名はどこか辛そうに花蓮を見つめる。
「へえ。
…珍しい。
もしかして、お前もこの子が気に入ったの?」
「…」
椎名はじっと花蓮を見つめる。
「?」
花蓮は様子のおかしい椎名を黙って見返した。
面識はない。そのはずだ。
「いや…いい。
悠貴…ほどほどに…な」
そう言うと椎名は踵を返して中央テーブルに戻って行く。
「やれやれ。だーかーらー匿名だってーの」
大賀はオーバーアクションで大げさに手を上げると、花蓮の腰をグイっと引き寄せる。
唇が触れそうな距離で仮面の奥の目が微笑む。
「行こ。
名も知らぬ同士、一夜の快楽に溺れよう」
「はい」
花蓮は大賀に導かれるまま、覚悟を決め、奥の重厚な扉の中ーー赤の部屋に向かって消えていった。
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