アベニールという名の、置屋

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◇◇◇ 「…へー。あの子、大賀様なんですね」 遠目に花蓮を見送った茜の後ろから、アベニールの心音(ここね)が話しかける。 「うん…初めての仕事が大賀様は…きついわね」 茜がシャンパン片手に呟くと、心音が意地悪そうに鼻を鳴らした。 「…そうですか? 私は好きでしたよ? …まあ大賀様は同じ女は2度と抱かないですからね」 「そうねぇ」 「一晩持つのかなぁ? ふふ…すぐ飽きられたりして」 「…」 刺のありすぎる言葉。 茜は仮面越しに心音をじっと見つめた。 心音はまだ21歳だ。 アベニールに来たのも1年前。花蓮が入るまでは一番若いというだけで特に目立たない新人だった。 アベニールだから、顔もスタイルもキレイなのは当たり前だ。 「ふーん。それが本性? あんたって…可愛い顔して随分には意地が悪かったのね」 心音は鼻で笑った。 「お褒め頂いてどうも。 そんなことより。 茜さん…今日お客を取らないつもりなんですか」 「…」 茜は黙って心音を見つめる。 「ふふ…1年見てたらさすがにわかりますよ? 断われない時はともかく…基本うまーく逃げてるの」 「…」 嘲笑に茜のこめかみがピクリと動いた。 その時ーー 「美女が2人で話してるなんて嘆かわしい…不毛だな」 2人が振り返ると、そこには白い仮面をつけた初老の男性が立っていた。 「茂手木(もてぎ)会長…」 茜が思わず目を見開き、茂手木と呼ばれた男は笑った。 茂手木は一色(いっしき)グループの会長だ。 その総資産は日本では『両手に入る』とも言われている。 心音の目が輝いた。 「まあ!こんばんは会長…お会いしたかったです」 「おやおや。 今宵は仮面パーティだが?」 心音が茂手木に近づき、その腕に自分の腕を絡める。 茂手木は鷹揚に微笑んで、茜と心音を見つめた。
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