響高校(花蓮の思い出)

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3年生の夏休み前ーー 担任との面談で、進路の最終希望確認があった。 「は? 柏木…今なんて?」 花蓮は担任の藤沢をまっすぐ見つめる。 「はい、進学をやめて、就職します」 「…」 藤沢はポトリとペンを落とした。 「…おまっ…おまっ…… っ…お前の成績で…?」 「はい」 「ついこの春に希望してた公立のN大学だってA判定だぞ? お前なら他の大学だって…」 花蓮は担任の藤沢にわからないように、小さく唇の内側を噛んだ。 「家庭の事情で…親戚の会社で働かせてもらうことになったんです」 本当は、大学には、行ってみたかった。 父親も、小さな頃からそれだけは何故か認めてくれていた。 「…」 藤沢は大げさに見えるほどため息をつく。 「あーー…そうなのか。 … 柏木。奨学金を借りるってのもありだぞ。 お前の成績なら、返済不要の奨学金や、特待生だってーー」 花蓮は小さく首を振る。 「…もう決めたことです」 ーーもう、これは…決められた人生だからーー 「んーーー…」 少しの沈黙。 それから藤沢は残念そうに書類の『就職(縁故)』に丸をつける。 「…気が変わったらいつでも相談に来い。 俺にできることはいつでも…何でもしてやるから」 「ありがとうございます」 花蓮は頭を下げた。
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