アベニールという名の、置屋

2/15
前へ
/103ページ
次へ
◇◇◇ 「出発まで30分よ」 「はーい」 入念にカラダを磨き上げたバスローブ姿の女たちが次々に化けていく。 髪をセットしてもらったり、爪を整えてもらったり。 同じくバスローブをはぎ取られて素っ裸になった花蓮《かれん》は、素肌に大人っぽい赤紫色のイブニングドレスを着せられる。 タイトなデザインに、カラダの線は丸見えだ。 左側に深く入ったスリットは歩く度に太腿を露にする。 「あらぁ…見て見て。 いい仕上がりじゃない?」 「ゴロウちゃん、ホントね。 花蓮って背も高いし、カラダのラインがきれいなのよ」 「華奢な肋骨。ちゃんと筋肉があって、カタチのいいきれいな脚。 膝小僧カワイイわ。 肌も柔らかいわね~。 さっぱり整った顔立ちだし、すっごい原石だとアタシは思ってたわ! 初めて見た時からびびっと来たのよ~ 花蓮をいじるの楽しいわ~んも~」 「ジロウちゃんまで褒めるのは珍しいわね」 「すごく自然なのに…化粧映えもするわねえ」 「きめが細かいし若いからファンデはつけないでもいいぐらいだけど、今夜は薄くーーうん、このくらいがいいわ。 ほーら、ほんのちょっといじっただけで、すごく大人っぽくなった。 白目が青く見えるぐらい真っ白で、黒目がちでウルウルね。絶対目を引くわ」 「ほんと…印象的なきれいな目ねぇ」 「…ありがとう」 「アンタ背が高いんだからなおさら姿勢はいつも気を付けてね。 堂々と、美しくよ」 「はい」 だだっ広いワンフロアの部屋の中。 シャンデリアの明かりが煌々ときらめいている。 スタイリストのゴロウちゃんとヘアメイクアーティストのジロウちゃんに着飾られた花蓮は、同じくキラキラしたドレスに身を包む女たちの視線を受け止める。 好奇の目もあれば、冷静な目も、攻撃的な目もあった。 「花蓮は初仕事ね」 「はい」 なんで、こんなことになったのか。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加