ママの手作りタロット

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 夕美がもらった誕生日プレゼントの中で、もっとも嬉しかったもの。それが、ママの手作りタロットカードだった。  小学校5年生の時だった。夏休み明けころ、クラスでは唐突に占いブームがやってきた。クラスのムードメーカーが夏休み中恋占いにハマっていたことをきっかけに、またたくまに広がったのだ。手相占い、夢占い、トランプ占い、花占い……。男子も女子もそれぞれお気に入りの占いを見つけ、夢中になった。休み時間には、それぞれ好きな占いで友達と遊んだ。  夕美はタロット占いに熱くなった。女帝、恋人、皇帝、悪魔……。カラフルで、神秘的なカードの絵は、夕美の子供心をくすくった。友達がタロットカードを買ってもらったと聞いて、家に帰って言った。 「ママ、タロットが欲しい」 夕美はママに、しつこいほどにねだった。とうとうママも折れ、タロットカードはお誕生日プレゼントにくれることになった。その時、 「普通のタロットじゃつまんないでしょ」  なんとママは、ネットで無地のカードを購入し、一枚一枚、タロットの絵を描いてくれた。  ゼロ番の『愚者』から、ニジュウイチ番の『世界』まで。東京藝術大学デザイン科をトップで卒業したママは、可愛くてかっこよくて、美しいタロットカードを完成させた。  モチーフになっているのは夕美そっくりの女性だった。愚者の格好していたり、皇帝になっていたり。天使と一緒に『審判』していたりした。ママ曰く、女性は夕美だそうだ。夕美は自分が主役の、世界に一つだけのタロットカードに胸が踊った。  が、『恋人』のカードを見た時、夕美は目を丸くした。 「ママ、『恋人』のカード、わたししか書かれてないよ」  『恋人』のカードは、普通なら男と女が描かれているはずだったが、ママのタロットカードには、夕美の左を向いた横顔しか描かれていなかった。男がいるはずの場所は真っ白で何もなかった。 「ああ」ママはにっこり笑った。 「そこはね、ユウミチャンの未来のお相手が入るのよ」  歌うように言った。
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