DAYS.1 インパクト

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 氷の下にあると言っても、インパクト予想地点は日本の領土だったところだ。日本船団は衝突の影響を探るべく、急きょ調査隊を派遣することにした。調査は科学船が主体となるが、航空母艦とイージス艦各一隻に加え、水面下で潜水艦二隻が護衛につくことになった。 「ちょっくら日本を見に行ってくるよ」  空母「呉」のヘリコプターパイロット川口健太は、出航準備に追われ、興奮していた。 上気していたのは川口だけではない。空母やイージス艦全体が久々の〝出撃命令〟を受けて、興奮状態にあった。それもそのはず、日本船団が最後に攻撃を受けたのは五年以上前のことで、それ以来、護衛船団は開店休業状態だった。演習ではない本物のミッションが課せられたのだから、兵士たちが奮い立つのは当然だった。 「できるだけ近づいて、空からインパクト地点を確かめる。俺のヘリからの映像を楽しみにしててくれ」  川口は出航前の慌ただしい時間の合間に、幼馴染の星也に通信を入れてきたのだった。 「小惑星の野郎は、きちんと隊列を整えているらしいな」 「ああ、七×七の四十九個で、正方陣だ」 「ふーん」  会話に少し間が空いた。天文が専門でなくても、小惑星が整然と飛行することが起こりえないことぐらい分かる。 「どうして、そんなことが起こるんだ。天文班なら仮説くらいはあるだろう」 「分からないよ、そんなこと。仮説すら立てられないくらい、あり得ないことだ」 「偉いさんはどう見ているんだ」 「思考停止さ。当面の危機が回避されたから、それで一安心なんだろう。それに、今回のことは謎が多過ぎる。偉い先生たちも説明がつけられないと思うよ。だからこそ健太たちが現地に派遣されるんじゃないのか」 「そりゃそうだろうけどさ。でもな…」  川口は言い淀んだ。 「誰かの攻撃ってことはないよな」  唐突に発せられた一言だったが、口調は真剣だった。星也は一瞬意味を掴みかねた。 「いきなり落下地点から宇宙船が飛び出してくるなんてことはないよな」  星也は吹き出した。 「健太、それは映画の見過ぎだ。光学衛星でも赤外線やエックス線でみても、人工物の可能性はゼロだよ。間違いなく普通の小惑星だ。しかも一つ一つは司令船より小さい。全部合わせても、俺たちの船団より小規模なくらいなんだよ」 「でも、その四十九個が七×七の正方陣を組んでいるんだろう。自然に発生した小惑星群とは、俺には思えない」 「それはそうだけど…」 「何だか、嫌な予感がするんだよ」  川口の口ぶりからは、最初の威勢の良さが消えていた。
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