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5.
小惑星群は予想された時間通りに地球大気圏に突入した。
晩冬の午後四時三十七分、もうすぐ日没という時間帯だが、空はまだ充分に明るかった。北半球、特に旧アジア・太平洋地域では、次々と落下する小惑星の描く軌跡を肉眼で見ることができた。
白熱化した最初のひとつが北の空に現れた。時を置かずして、四十九の小惑星すべてが姿を現した。小惑星本体は、秒速二十キロを超える猛スピードで大気と猛烈な摩擦を起こしつつ、まばゆい光を放って暴力的な激しさで快晴の空を切り裂いていった。その後方には灰色の流星痕が水平に近い角度で長く続いている。それはまるで大きな筆で空に線を描いたかのようだった。四十九個の火球と流星痕はまたたく間に空を埋め尽くした。
「すげえな」
日本列島のあった場所から四千キロ以上南に離れている天体観測船の甲板では、坂井星也が空を見上げていた。しばらくの間、見とれていると、遥か上空から巨大な雷のような衝撃音が届いた。
「うっ」
空気全体を震わせる轟音に、星也は耳を塞ぎ、思わず膝をついた。鼓膜が痺れるような感覚があった。衝撃波は鏡のように穏やかだった海面を波立たせるほどの勢いがあり、船はしばらくの間、左右に小刻みに揺れた。
「坂井君、早く観測室に戻って。もう充分でしょう?」
船内通信装置から篠田かおりの声が響いてきた。どうしても大気圏突入の瞬間を見たいと懇願し、星也はしばしの休憩をもらっていたのだ。
「了解しました」
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