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司令船の作戦室では大澤武首相らが、十六の分割画面がある大きなモニターでインパクトエリアの様子を確認していた。空母「呉」から発進したヘリコプターや航空機による上空からの映像は、ほとんどが濃密な水蒸気や雲の中からのもので、地表の様子はほとんど分からなかったが、観測衛星からの画像が映し出されるたびに、室内にはどよめきが上がった。
「地表は大洪水のようです。融けた水が低地に雪崩をうっています」
時折、ヘリから短いリポートも入った。
「皮肉なものだな…」
大澤がつぶやいた。
「えっ」
補佐官の緑川哲が首相の表情を窺った。
「三十数年前、地球のスノーボール化が始まって、人類は科学の粋を結集して、その進行を食い止めようとあらゆる対策を講じた。しかし、氷雪域の南下を食い止めることはできなかった。それがどうだ。この小惑星は分厚い氷を一瞬で消し去り、日本の国土が再び現れた」
「総理…」
「日本を再建できる可能性が見えた気がする。我々は小惑星に感謝しなければならないのだろうか」
緑川も同じことは考えていたが、助言を忘れなかった。補佐官は耳の痛いことを進言するのも任務なのだ。
「しかし、衝突の影響を詳細に調査してみなければ、インパクトエリアに接近できるかどうかも分かりません。国民にはあまり期待を持たせない方がよろしいかと」
大澤は渋面をつくりながら、頷いた。
「それは分かっている。だが、国民は船団国家の生活に飽き飽きしている。将来への希望はしぼんで絶望に変わりつつあるのも現実だ。大地を踏みしめて暮らせるのは、大きな希望につながる」
「仰る通りです、総理。ですから、日本再建の計画はあらゆる予断を排除した上で周到に練らなければなりません」
大澤首相は小さく頷き、厳かにいった。
「すぐに専門家を集めたまえ。再建が可能かどうかを判断し、必要とあらばすぐに計画を策定し、実行する」
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