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DAYS.2 降り続く雨
1.
「いつになったら雨が止むのだろうか。もう三カ月は降り続いている」
長時間に及んだ対策会議を終え、大澤武首相は補佐官の緑川哲に語り掛けた。日本船団は雨の地帯を避け、現在は南方海上に停泊している。小惑星群が衝突した日本列島付近の地域では、土砂降りが今だに続いていた。
「楠木博士の見立てですと、あと一カ月程度で収束に向かうだろうと」
「総雨量はどのくらいなのだ」
「三万ミリを超えています。最終的には五万ミリを超えるのではないかと思われます」
「恐ろしい豪雨だな。それが全て、小惑星が溶かしたあのエリアに湖のように溜まっている訳だな」
緑川は無言で頷いた。
「この水をどうにかしなければ、やがて再び凍ってしまう。そうなると小惑星がもたらした僥倖は失われ、国土の再建は絵空事となる」
「その懸念は博士も指摘されておりました」
「あの水を海に流すことはできないのか」
「その可能性については、鋭意検討中であります。最も可能性のあるのは、氷が最も薄く、海への距離が短い場所に水路を築くことです」
「流田博士の案だな」
「その通りです。しかし、現在、衝突によって生じた陸地エリアから海までは最短でも五百キロ以上あります。いくぶん融氷が進んだとは言え、厚さは五十から百メートルはあるでしょう。ここに長大水路を築くのは我が国だけの力ではどうにも…。大量の水が海洋に放出されますので、周辺国の了解を取る必要もございます」
大澤は小さく唸って、腕を組んだ。
「しかし何とかせねばなるまい。流浪の旅を終わらせるためには…」
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