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「インパクトエリアに溜まった水の流出が終わるまでに最低でも一カ月はかかるはずです」
「ということは…」
「その間、絶え間なく大量の水が海に注ぎ続けるということです。つまり、最悪の場合、その巨大津波は一カ月ほど繰り返されることになります」
「八重山はどうなる」
大澤首相が声を絞り出した。八重山諸島にはまだ氷雪域に飲み込まれていない島がいくつかある。日本にとってはわずかに残された貴重な陸地の領土だった。
「八重山は流出地点に近い。最大限の被害を受けることになるでしょう」
会議室は静まり返った。
「それでは…」
司令船の山口博行艦長が口をはさんだ。
「インドネシアなどに避難しても無意味ではないのか。もっともっと遠くに逃げなくては」
流田教授は山口艦長を見え据えて言った。
「幸い津波の発生地点は分かっています。島を防波堤として、その陰に隠れれば第一波は確実にかわせます。ただ、第二波、第三波となると…。反射波の計算が余りに複雑で、正直、分かりません。無意味と仰いましたが、それを言ってしまえば、地球の海に安全な逃げ場所はありません」
「地球上に?」
「そうです。この津波は最悪のケースだと全世界に伝播するだけの威力を有していると推定できます。津波の波高は太平洋を挟んだ対岸にある南米でも十メートル超は免れません。インドネシアに避難するのが無意味なら、世界中のどこの海に逃げても無意味なのかもしれません」
「運を天に任せるしかないのか…」
大澤がつぶやいた。
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