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天文観測船は盆と正月とお祭りが一緒に来たような大騒ぎとなっていた。天文学や物理学の専門家が次々と乗り込んで、観測データをひっかきまわしているだけでなく、通信船もランデブーして、世界各国の天文台と連絡を取り合い、観測情報を交換している。
「もう本当に猫の手も借りたい。天文観測の人員を削減するからこんなことになるのよ」
天文班の篠田かおりは慌ただしくディスプレイをタッチしながら、観測数値を処理していた。
「ハワイのマウナケアが残っていればなあ…」
隣席の坂井星也も愚痴をこぼした。現在、地球上にはまともな天文台が片手の数ほどしか残っていない。中、高緯度にあった天文台が南進する氷雪域に飲み込まれて機能を失ったからだ。数年前に放棄されたハワイのマウナケア山頂の望遠鏡も今は百メートル近くあるぶ厚い氷に取り囲まれ、近づくことすら難しい。
「何十年も前には、宇宙望遠鏡だってあったのに。ハッブル望遠鏡が欲しい。あれがあれば、かなりのことが分かったはず」
「ノスタルジーにひたっている暇はなさそうよ」
篠田はOJ-22のディスプレイに集中していた。OJ-19が小惑星群を発見した後、OJ-22の軌道を修正し、観測に参加させていた。現在、日本が動かせる天体観測衛星はこの二つしかなかったが、アメリカの三基とEUの二基が観測に参加してくれたおかげで、小惑星群の動きは次第に明らかになってきた。
「どうやらひと安心のようね」
篠田は目を瞬かせながら言い、ディプレイを指さした。
「予想コースだと、インパクトは北緯三一度三四分、東経一三〇度三三分付近。ここは今、氷雪域の中よ。海に落ちないなら、それほど影響はないでしょう」
「でも…」
星也が口を開こうとすると、篠田がそれを制した。
「何、この配列…。ちょっと見てみて」
星也が篠田のディスプレイを覗くと、小惑星の進路を示すレーダーに、小さな点が多数映し出されていた。
「こんなことってあり得るの?」
篠田が唸った。ディスプレイには小惑星を示すドットが数十個、規則正しく等間隔で整列していた。それはまるでテレビゲームの一コマのようだった。
「これが真っ直ぐ地球に向かって来ているというの」
漆黒の宇宙で、整然と並んだ小惑星が音もなく突き進んで来る姿を想像して、星也は全身に鳥肌が立つのを感じた。
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