DAYS.1 インパクト

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DAYS.1 インパクト

1.   鏡のように均一で穏やかな海を、百隻を超す巨大な船団があてどなく南へ進んでいた。空には一片の雲もなく、淡い青空を映し込んだ海面を船の航跡がわずかに切り裂き、時間すら止まったかのようなこの海域の静寂をかすかにかき乱していた。 「今日もベタ凪ですね」  船団の後方に位置する天文観測船で、坂井星也は手持ち無沙汰だった。  隣の席では先輩の篠田かおりが同じように暇を持て余していた。 「時化ないのが何より。これはこれでいいんじゃないの」 「それにしても、ここ一年ほど、ずっと海は沈黙してますね」 「海流が止まっちゃったんだから、しょうがないよね」 「太陽放射も相変わらず低い数値ですよね」 「このまま太陽がずっと冷え込んだままってことはないんじゃない? 問題なのは地球が完全にスノーボール化する前に、間に合うかどうかよ」  この話はもう何度もした。暇つぶしの会話にしては、いささかテーマが重過ぎる。この話題の後はいつも白けた空気が訪れる。  だが、この日は違った。わずかな沈黙の後、全天空レーダーがけたたましい警告を発したのだ。 「どうしたの、何が起こったの」  篠田が椅子から転げ落ちんばかりに驚いた。それもそのはず、レーダーが警告を発したのは二年ぶり、いやもっと前かもしれない。心臓を鷲掴みにするような耳障りな電子音が、窓のない天体観測室に繰り返し響いた。 「軌道衛星OJ-19です。地球に向かう飛翔体を感知しました」  星也はディスプレイを凝視していた。画面上には多くの数字とそれをグラフィック化した軌道予想図が映し出されていた。 「OJ-19、まだ生きていたのね」 「あれは最終型ですから。ヒドラジンがまだ残っているんですよ。世界的にみても、稼働している数少ない天体観測衛星です」 「それで…飛翔体は何者なの」 「多分、小惑星ではないかと」 「大きさは」  ディスプレイは目まぐるしく変化していた。星也はそれを懸命に目で追った。 「直径1キロ、大きいな」  隣で篠田が椅子に座り直した。 「いや、違います。50メートル級が数十個まとまって、小惑星群を形成しているようです」 「距離は」 「地球から約四十三万キロ」 「随分近いわね。なぜ今まで分からなかったの」 「月の陰から突然現れました。速度も速いです」 「コースは」  星也はタッチペンで画面を何カ所かなぞった。 「大変だ…」  篠田がすがるような表情で星也を見た。 「地球衝突コースです。真っ直ぐ向かってくる」
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