プロローグ

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プロローグ

 私立海鵬(かいほう)学院は、中学校から大学まで併設されており、エスカレーターで大学まで進学する生徒が半数近くを占めていた。  中等部に通う一花(いちか)は窓の外をぼんやり眺め、両耳の下から編んだ三つ編みを指でいじりながら友達との会話に耳を澄ます。 「えっ、めぐたんって三組の篠田(しのだ)が好きなの? めちゃくちゃライバル多いじゃん」 「だって勉強出来るし、サッカーの練習してる姿なんてかっこよすぎてたまらないよ〜!」 「最近は一年生もキャーキャー言ってるよね〜」 「そうなの! でも今は告白とかより、見ているだけで満足かなぁ。篠田くんはみんなの篠田くんだし」  中学二年生になり、一花の周りだけでなく、全体的に恋の話が増えてきた。彼氏彼女が出来る子も少なくない。 「じゃあ智絵里(ちえり)はどんな人がいいの? この間は二組の河原(かわはら)がかっこいいって言ってたよね」 「うーん、そうなんだけどさぁ……この間男子と馬鹿騒ぎしてるの見た時にちょっと引いたんだよね。今は特にいないけど、やっぱりスポーツが出来て優しい人がいいなぁって思う」 「なるほど。やっぱりその辺は絶対条件だよね! わかる気がする〜。ところで一花は? 誰か気になる人とかいるの?」  芽美(めぐみ)に聞かれて、一花は苦笑いをする。 「私はあんまりないなぁ……なんかかっこいいの基準がわからないんだよねぇ。顔が良くても性格が悪かったら嫌だし、顔より優しい人って思うと、中身を見るまでときめかないわけでしょ? 恋が始まるタイミングっていつなのかなぁって思うと、考えても答が出ないんだよね〜」 「……つまり今はまったくときめく人がいないと?」 「うん、そうなるかな」  芽美は驚きを隠せず、口をあんぐりと開ける。 「私はこの学校、かなりイケメン揃いだと思ってるよ!」 「まぁ、顔だけは確かにイケメン多いよね」 「顔だけって……何人かは話したことあるけど、みんないい人だったよ!」 「外面かもしれないよ」  確かに漫画とかでも中学二年生の主人公って多いし、そういう時期なのかもしれない。でも全員が全員恋をするわけじゃないし、しなくちゃいけないわけでもない。  智絵里と芽美は顔を見合わせる。 「一花は恋に落ちるまでに時間がかかりそうだねぇ」 「チェック項目が多そうだもん」 「そんなことないよ。私だってこの人って思う人に出会えたら、きっと一瞬で恋に落ちちゃうと思うの。まだそこまでの人に会えてないだけだし、焦らなくてもいつか会えればいいんだ〜」  別に恋がしたくないわけじゃないの。ただ無理矢理好きな人やときめく人を探す必要はないと思うし、心から好きになれる人にいつか出会えればそれでいい。 「なるほど。一花は恋に興味がないわけじゃないんだ。逆に運命の人を待ってるわけね〜!」 「めぐたんより乙女じゃな〜い! 一花って意外と夢見る夢子ちゃんなんだ〜」 「そ、そうなのかな?」 「そうそう。一花が好きになる人ってどんなかなぁ? 楽しみすぎる」  運命の人か……漠然とした理想はあるけど、現実にそんな人がいるわけないって思ってしまう自分もいた。 「私は二人がどんな人と付き合うのか楽しみにしてるね」 「本当。みんなどんな恋をするんだろうね〜」  そうしてまた話に花が咲くのだった。
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