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クラスに戻った一花に、芽美と智絵里は待ってましたとばかりに近寄ってくる。
他のクラスメートたちも、一花を見て何やらコソコソ話をしていたが、今の一花にはどれも耳に入らなかった。
「ねぇねぇ、一体何があったの? すごく気になるんだけど!」
芽美の声は聞こえているけど、それどころではなかった。椅子に座ると、一花は机に倒れ込む。
「どうしよう……心臓がドキドキしすぎて死んじゃいそう……」
「大丈夫。それくらいじゃ死なないから。で、なんで先輩と知り合いになったの?」
芽美とは対象的に、智絵里が冷静に一花に聞く。一花は起き上がると、ゆっくり口を開いた。
「あのね、調理部の部長さんに……千葉先輩のことを聞いたの。そしたら偶然にもお友達だったみたいで……金曜日の部活に千葉先輩を呼んでくれてね、私の作ったケーキを食べてくれて、しかも生チョコが食べたいってリクエストまでもらって、もうどうしよう……死にそう……」
「だから死なないって。最後の方がごちゃごちゃしてよくわからなかったんだけど、さっき持ってた箱が生チョコだったの?」
智絵里の問いかけに、一花は小さく頷く。
「なんか嬉しすぎて昨日作っちゃった。そしたら……美味しいって言って食べてくれた……。どうしよう、幸せすぎて……」
「ちゃんと生きてるから。死なないから。でも粋なことをしてくれる部長さんだね」
「そうだね……まさかまた話せるとは思わなかった。部長たちには感謝しかないよ」
体育祭での優しい声と手の感触、素敵な笑顔を思い出すだけで胸が熱くなるのに……。金曜日とさっきの先輩の姿が一花の頭に追加で登録され、好きな気持ちがどんどんアップデートされて増えていくようだった。
「あ、あのね、チョコのお礼にって今度バスケを教えてもらうことになったんだけど、どんな格好で行ったらいいかなぁ」
「……それって二人きり?」
「たぶん……」
「ってことはデートじゃない!」
「違うよ、バスケを教えてもらうだけだもん」
「……じゃあそういうことにしておこう。とりあえずバスケも出来て、お店にも入れるくらいの服装がいいね」
「何があるかわからないしね。髪型も三つ編みはダメよ。子どもっぽく見えちゃうから」
話が盛り上がってきたところで始業のベルが鳴る。
「続きはまた後ね!」
二人はそれぞれの席に戻っていく。
一花は机の中から教科書を出しながら、尚政の笑顔を思い出していた。
『一花ちゃん』
先輩の優しい声でそう呼ばれて嬉しかった。
恋って本当に突然始まるのね……。
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