デートのような〜中学生編〜

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デートのような〜中学生編〜

 家族でテレビを見ていた時に、突然スマホが鳴る。なんとなく画面を見た一花は、尚政の名前を見つけて慌ててスマホを抱きしめた。  とりあえず気持ちを落ち着かせてから、もう一度画面を確認する。 『次の日曜日は空いてる? 山上公園の運動場でどうかな?』  次の日曜日、何も予定は入ってなかったはず。一花は息を大きく吸い込むと、母の方を向く。 「お母さん、日曜日に友達と遊びに行ってもいい?」 「日曜日? いいんじゃない? 遅くならないようにね」 「はーい」  なんとか平静を保って話し、そっと胸を撫で下ろす。 『大丈夫です。楽しみにしています!』  送信ボタンを押してすぐに既読がつく。先輩から送られたかわいいクマのスタンプを見て、つい吹き出してしまう。  日曜日は先輩と二人きり。心配と期待が同じくらいの割合で押し寄せた。 * * * *  日曜日は朝からずっとソワソワしていた。  六月の梅雨時期のため天候を心配していたが、気持ちの良いほどの晴天となった。  公園の入り口に十時に待ち合わせ。  デートじゃないとは思いつつも、少しでもかわいいと思われたくて、初めてファッション雑誌を買ってみた。でもどれが自分に合うのかわからず、お手上げ状態だった。  とりあえず芽美と智絵里からアドバイスを受けて、それに近い服を家で探したり、母親におねだりして買ってもらったりした。  こういう時に上にきょうだいがいたら違うんだろうな……。妹しかいない一花は肩を落とす。  見た目はプリーツのスカートだが、中がショートパンツのようになったボトムスに、肩にフリルのついたピンクのTシャツを合わせ、カバンは合皮のリュックを選んだ。中には飲み物やタオルを詰め込んでいく。  バスケを教えてもらうんだし、髪は一つにまとめた。  スニーカーを履いて家を出る頃には、精神的にクタクタだった。  待ち合わせ場所に着いても、この服が正解かわからなかったし、何より尚政の反応を想像しただけで不安になる。  自分から言ったことなのに、緊張でおかしくなりそうだった。  一分もたたないうちに、何度も腕時計を確認してしまう。こんなに時間が長く感じるなんて、今まで経験したことがない。 「一花ちゃん? びっくりした。もう着いてたんだ」  声のした方を向くと、白いTシャツにデニム姿の尚政が自転車に乗ったまま立っていた。カゴにはバスケットボールを持っている。  わぁ……すごく似合ってる。初めて見る尚政の私服に、一花はまたドキドキしてしまう。 「俺の方が早く着いたと思ったのになぁ」 「お、お待たせするわけにはいかないと思って……」 「いやいや、女の子だし、時間ぴったりくらいでいいと思うけどね」 「そうなんですか?」 「あとは彼氏を待ちたいか、待たせたいか。一花ちゃんはどっちタイプ?」 「……待ちたいです」 「あはは! 確かにそんな感じする」  尚政は自転車を降り、遊歩道に沿って歩き出す。一花も追いかけるようについていく。  今もまだドキドキしてるけど、今の会話で少しだけリラックス出来た。  背の高い木が等間隔に植えられた遊歩道の横には芝生広場があり、親子連れがテントを張ったりシートを敷いて、楽しそうに遊ぶ姿が見える。 「ここって来たことある?」 「小学生の頃に遠足で来たことはあるんですけど、それ以来ですね」 「そうなんだ。俺はよく仲間とバスケしに来たりするんだけど、こんな朝から来るのは初めてかも」  しばらく歩いて行くと、背の高いフェンスに囲われたバスケット専用のコートに到着する。   まだ誰もいないコートに入り、ベンチに荷物を置くと、尚政はゆっくりとドリブルを始める。 「さて、何から始めようか。ちなみにそれってスカートじゃないよね?」 「大丈夫です! 中はショートパンツになってるので!」 「了解。まぁ授業のバスケだしね、とりあえずドリブルとパスとシュートあたりを練習しようか」 「は、はいっ! お願いします」  尚政は少し離れたところから、ボールを投げる。一花はそれをキャッチした。 「じゃあそこでまずドリブルしてみて」 「はいっ」  言われたようにドリブルをする。 「じゃあそのままこっちに来られる?」 「それは無理です! ボールと一緒に動けないんです」  それを聞いて尚政は笑い出す。 「出来ないことをちゃんとわかってるならいいと思うよ」  尚政は一花の背後にまわって手を重ねると、一緒に弾むボールを突く。 「そうそう。今度は反対の手にボールを移動するよ」  ボールが地面を跳ね、反対の手に当たると、そのままドリブルを始める。 「一度手に持ってから再度ドリブルをしちゃうとファールを取られる可能性が高いからさ、この動きが自然と出来るといいね」  一花の耳に尚政の言葉は届いていなかった。密着した体と、触れたままの手が気になって、一花の頭は爆破寸前だった。  しかも尚政が話すたびに耳にかかる息遣いが、一花の心拍数を更に上げていた。 「一花ちゃん?」 「す、すみません! 大丈夫です! ちゃんとやりますので!」  顔は見えないが、耳まで真っ赤になった一花を見て、尚政は思わず笑いを堪える。やりすぎたかな。一花ちゃんを見てると、なんかからかいたくなるんだよな……。  それでも一生懸命ドリブルの練習をする一花の姿を見ていると、真面目に教えようという思いも芽生えてくる。  ドリブルをしながら走れるようになると、一花は嬉しそうに尚政を見た。 「出来ました! これでちょっとはチームの役に立てそうですね!」 「うん、この短時間ですごいすごい! じゃあ休憩したらシュートの練習もしようか」  一花が頷くと、二人はベンチに戻って行った。  
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