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俺はふとスマホから目を離すと、枕元の置時計のランプを付けた。いつの間にか、もう十二時を回っていた。だからどうってわけでもないけど、と心の中で呟きながら、俺はすぐにスマホに目を戻してため息をついた。
暗闇に沈む部屋を照らすブルーライトは、俺の目を激しく消耗させる。身体は既に、寝返りをうつことさえ億劫に感じてしまうほど疲弊している。今すぐ目を瞑って眠ってしまった方が、明後日のためにも良いのではないかという思いが、頭をよぎった。
だがそれでも、俺は必死に睡魔に抗っていた。明日は日曜なんだから、今夜くらいは夜更かししておかないと損だ、という思いを胸に、ただそれだけの理由で、俺は徹夜をも厭わない覚悟でベッドで横になっていた。
ところが今や、ゲームや動画鑑賞、SNSのチェックまで、思いつくことは全てやり尽くしてしまった。そうして俺は、本当に何もすることがないまま、手当たり次第にアプリを開いては閉じを繰り返していた。
何か暇を潰せるものはないだろうか。俺は意味もなく指を動かしながら、眠りかけの脳を必死に働かせて考える。スマホを弄る指を止め、真っ暗な天井をぼうっと見つめ、考える。そして、考えに考えた末、幸いなことに、『ホラー』というキーワードが頭の中に浮かんできた。
夜中に無理に起きているという状況での、突発的なひらめきは、中々無視できないものである。俺は早速『怖い話』『都市伝説』『オカルト』といった言葉を検索し始めた。そして、終わりのないネットサーフィンを開始した。
俺は数十分の間で、次から次へと様々なサイトを訪れた。しかし、ほとんどのサイトは大して面白いわけでもなかった。見つかるのは、何番煎じかも分からないような陳腐な話や、現実味の無いファンタジー小説のような話ばかり。どれだけネットの海を彷徨っても、期待していたような『ホラー』は感じられなかった。
だがそれでも俺は、頭を空っぽにしてサイト一覧をスクロールし続けた。無駄な時間を過ごしているという自覚はあったが、一度スマホを触りだしたら離せないのが俺の悪い癖だった。
俺はあくびを噛み殺しながら、重たい瞼をこすった。それから目を開けて、再びスマホに視線を落とした。
そのサイトが画面上に姿を現したのは、ちょうどそのときだった。
それは、明らかに他のサイトとは異質の雰囲気を醸し出していた。サイト名はただ一言で、『モルジャヴ』。意味不明だが、何やら怪しくてオカルトチックな匂いがする。
俺はすぐさま『モルジャヴ』にアクセスした。その内容は、一見支離滅裂で、何について書いてあるのかも最初はよく分からなかった。しかし、よくよく読んでいるうちに、俺はいつの間にか、そのサイトの文章に引き込まれていた。
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-----モルジャヴ------
■■■緊急通告■■■■■■■■■■■■■
当サイ##前サイト『MOLJAVE』に変わる非常用特設サイトです。
【データが見つかりませんでした】次第、####は閉鎖されます。
####が確認された【ERROR】即座に##してください。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
我々は、現代のインターネットに蔓延るモルジャヴの生態の曝露とその根絶を目標に掲げ、今日まで日々研究を重ねてきた。そして、モルジャヴの完全制御と半永久的な機能停止【ERROR】システムの開発を手掛けてきた。
しかし我々は、重大なミスを犯してしまった。開発段階において、あるシステムの欠陥が見逃され#####。###気付いた頃には、モルジャヴは【データは見つかりませんでした】。#####緊急制御機能や安全装置の整備がまだ不完全だったこともあり、モルジャヴはインターネット上に##########。
【データは見つかりませんでした】
事実、【ERROR】に陥ったモルジャヴの####は、###想定を遥かに上回っていた。モルジャヴは理論上、オンラインに接続された全ての電子媒体に干渉【ERROR】###########プログラムの崩壊を######。モルジャヴの暴走の痕跡は、今のところ前サイト『MOLJAVE』の一件の他には未確認ではあるが、必ず【ERROR】
またこれにあたって、前サイト『MOLJAVE』は永久に閉鎖される。前サイトの閲覧者への対応は、現在#######【ERROR】
【データは見つかりませんでした】
我々が最も恐れる事態は、当サイトにモルジャヴの【データは見つかりませんでした】が及ぶことである。そのため当サイトでは、サイト利用者の権限の大幅な制限とユーザーの活動の全面規制、その他########によって、サイト内のデータの破壊及び改変は、事実上不可能な状態にあるはずで#######【ERROR】
【データは見つかりませんでした】
現在確認されている#######は、######影響下の電子媒体の使用者の精神及び【ERROR】【ERROR】異常をきたし【データは見つかりませんでした】
脳内の電気信号が【ERROR】によってハッキングされた##########と【データは見つかりませんでした】
これらの#######した場合【ERROR】やがて【データは見つかりませんでした】絶命##########。
【データは見つかりませんでした】
【データは見つ#ませんでした】
♯データ#♯見つ#####りませんでした】
【データは見つかりま#####した#
【デ#は##かり##でした♯
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そこまで読んだところで、スマホの画面は突然暗転した。視界は一気に闇に包まれ、暗い室内を照らすのは、カーテンの隙間から漏れる街灯の光だけとなった。
慌てて電源ボタンを押してみるも、何も反応がない。思わずスマホを手放し、唇を舐める。そこで俺は初めて、自分の心臓の鼓動が高鳴っているのに気が付いた。
汗の滲む背中にパジャマがぴったりと張り付き、体を起こすとひんやりする。俺は今までに経験したことのない、異様な恐怖を感じていた。たかがオカル#サイトだろう。自分はあんなも##本気で信じているのか。俺は必死に自分に言い聞かせた。だが、全身を襲う奇妙な寒気と鳥肌は、なかなか収まらなかった。
「はは、あほらしい、#####」
俺はそう声に出して言ってみた。
それから、自分が声に出して言ったことを理解できていない自分に気が付いた。
何かが、起こって###。俺はそう確信した。俺は………いや、待て。まさか、違う。そんなはず###。これは【ERROR】だが、どれほど息を荒げて恐怖から目を逸らそうとしても、頭の中をぐちゃぐちゃにするなにかの存在を認識せずにはいられない。
「ああ、あ#あ、####【ERROR】【ERROR】」
もはや自分の呻き声すらも、自分の声ではなくなっていた。思考が乗っ取られていく感覚。何も聞こえない。何も【ERROR】
意識が#######。ゆっくりと、俺は、########【ERROR】####################【データは見つかりませんでした】
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