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その日もいつもと同じように、高嶺くんのマンションへと向かった。
一つだけいつもと違うのは、私がとても身軽だということ。
週末のうちに、私のアパートから必要なものは高嶺くんマンションに運び込まれて、キャリーケースはあえなくお役御免となったのだ。
ついでに、高嶺くんは、物凄い手際のよさで私のアパートの契約終了の手続きまでしてしまった。
まだちゃんと言葉にはしてもらってないけれど、高嶺くんが私と結婚しようとしていること自体は疑ってはいない。
疑ってはいないけど─。
自分に自信がなくて、どうしても悪い方に考えてしまい、ため息がこぼれる。
「やっぱり私じゃダメなのかな…」
独り言のつもりで言ったセリフに、突然背後から返事が返ってきた。
「何がダメなんだよ?」
「た、高嶺くん!お、おかえり。今日も早いんだね。ちょっとは仕事落ち着いてきたの?」
慌てて笑顔を取り繕っても、高嶺くんは誤魔化されてくれなくて。
「何泣きそうな顔してるんだって訊いてるんだけど」
「それは─」
「何かあるならちゃんと言えよ」
高嶺くんなりに慰めているつもりなのか、頭をわしゃわしゃと撫でられ、この間より、もっと勇気を振り絞って尋ねた。
「も、もしかしたら、わ、私がこんなだから…ご両親に会わせたくないのかなって思って…っ」
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