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『それは、いくらなんでも言い過ぎだよ。高嶺くん』 と、言えれば良かったのだけれど。 壮絶過ぎる親子の会話にただただ圧倒されて、カフェに入ってからほとんど一言も発せないでいると、やり場のないお母さんの怒りの矛先がこちらに向いた。 「あ…アンタは何様なのよ?さっきから澄ました顔して突っ立って!!」 半分やけくそになったお母さんの声のトーンは一段上がって店内に響きわたり、周囲の注目が集まる。 それに僅かに緩んだ高嶺くんのガードをかいくぐって伸びてきた手が私の腕を引き、お母さんの真正面に座らされた。 「結婚の報告に来たなら自己紹介くらいしなさいよ」 「あの、わた、私…っ」 怖い。 ずっと黙っていたせいもあって、唇が強張り、動かない。 そんな私を高嶺くんのお母さんは、見逃してはくれなかった。 「あ、そうか。どうせすぐ離婚するつもりなんだ?」 真っ赤なルージュを引いた唇が意地悪くつり上がった。 「そりゃそうよね。景ったら私のこと大っ嫌いなはずなのに昔っから私にそっくりで。ワガママで自己中で、人の気持ちが分からない。その様子じゃ今日だって何も聞かされずに連れて来られたんでしょう?」 確かに何も聞かされては居なかったけれど。 形勢逆転。 一方的に責められているのに、高嶺くんは何も言い返さない。 それどころかお母さんの言葉にダメージを受けているように見える。 ただでさえ青白かった顔から更に血の気が失われていく。 それがただ心配で─ 「本当にいいところなんて一っつもない。弁護士バッジがなきゃ、誰もアンタなんかと結婚しようなんて思わないのよ!」 「そんなことありませんっ!!」 (とど)めのセリフを言い放った高嶺くんのお母さんに、気づけば即座に異を唱えていた。
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