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―――
「じゃあ、帰るな。また連絡する。」
「うん、待ってるね。あ、次来る時までには完成させとくよ、絵。」
「おぅ。圭吾の絵見ると、元気出るから。楽しみだな。」
「期待してて。」
僕が笑うと、邦宏くんもほっとしたように笑う。僕はそっと彼の背中を押した。
「ほら、早く帰ってあげて。」
「圭吾……」
「じゃあね、おやすみ。」
「……じゃあな。」
パタンと閉まったドアを、僕はいつまでも眺めていた。ドアが閉まる直前、振り返った彼の顔を思い出しながら……
―――
そして、次の週の土曜日。
「久しぶり。」
「お帰り。邦宏くん、待ってたよ。どーぞ。」
邦宏くんは約一週間ぶりに、僕の家に来た。僕は彼を早速、アトリエへと連れて行った。
「やっと出来たんだ。入って。」
「お邪魔しまーす。」
「ふふ。」
何回も足を踏み入れているのに、毎回彼は緊張気味に入る。僕は思わず出た笑いを慌てて引っ込めた。
「これだよ。」
「うわー……」
イーゼルに立てかけられたキャンバスを一目見た瞬間、そう声を出したきり固まってしまった彼。僕はドキドキする心臓を押さえて、じっと彼を見つめた。
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