29人が本棚に入れています
本棚に追加
―――
彼は甲斐邦宏。一流商社に勤めるサラリーマン。
仕事に対して真面目で、自分にも他人にも厳しいけど、仕事以外ではその明るい人柄と誰にでも優しい性格で、男女問わず人気者だ。
そして一応、僕の恋人。
男同士だとかそんな事気にしてたのは最初だけで、今ではこうして二人でいられればそれで良かった。
「圭吾?」
「え?」
「どうした?ボーっとして。座れよ。」
「う、うん……」
邦宏くんが怪訝な顔で僕を見る。僕は慌てて隣に座った。すぐ側に邦宏くんのぬくもりがある。
僕はそっと彼の肩に頭を乗せた。
「ん?」
「ふふふ。邦宏くんだぁ~」
「俺じゃなかったら、誰だよ。」
「んふふ。」
邦宏くんの心地良い声を聞きながら、僕はふと視線を移した。
「…………」
「圭吾?」
何も言わなくなった僕を不思議そうな声で呼ぶ。それでも僕はそこから目を離せなかった。
白く残った指輪の跡。
左手の薬指に刻まれたそれは、無言で僕を睨んでいた……
「……ごめんな。」
「邦宏くん……」
僕の視線に気付いた邦宏くんは、その手でそっと僕を抱き寄せる。逆らうすべを知らない僕は、されるがまま邦宏くんの胸の中に収まった。
「圭吾、ごめんな。」
「……謝らないで。僕が悪いんだ。邦宏くんを好きになったから……」
「いや、全部俺が悪いんだ。お前は悪くないよ。俺が弱いから……」
そう言うと、僕の肩に顔をうずめてくる。僕はそっと手を伸ばして、邦宏くんの頭を撫でた。
.
最初のコメントを投稿しよう!