第2話 絵の中に込めた想い

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――― 「俺、甲斐邦宏。この近くのS商事に勤めてるしがないサラリーマン。」 「僕は加賀美圭吾。一応画家……です。」 「え、マジで?すげぇ~!」 「全然すごくないですよ。絵だけでは生活出来ないから、M大の美術講師やってます。」 「でも絵を仕事にしてんだ。すごいな。俺さ、絵ダメなんだよね。」 笑い混じりに話す彼の雰囲気に、最初は緊張して固かった僕の体は段々とほぐれていった。 「今度、先輩の個展に絵を出させてもらうんです。もし良かったら、見に来てくれませんか?」 知らずにそう言っていた。言ってしまってからはっと口を押さえる。驚いている彼の顔を見ているうちに、段々と後悔が押し寄せてきた。 「すみません!いきなり失礼ですよね。今日初めて会ったのに……」 「いや、俺で良かったら、見に行かせてもらうよ。いつ?」 「あ、再来週の日曜日です。」 「わかった。予定あけとくよ。あ、やべ!会社戻んないと。じゃあ。」 「あ……」 腕時計を見て慌てて立ち上がる彼。思わず声が出ていた。 「ん?」 「あの……アートフォーラム。」 「え?」 「この近くのアートフォーラムって所です。個展開く場所。」 「ああ。そこならわかるよ。じゃあ、再来週な。楽しみにしてる。」 「はい……」 じゃあ、と手を挙げて去って行く彼の背中を呆然と見つめた。さっきまで彼が座っていた所と僕の間には、僕のスケッチブック。僕はそっとそれを手に取った。一枚一枚ページをめくる。 彼がキレイだと言った僕の絵を、日が暮れるまで眺めていた。 ――今思えば、もうすでに恋に落ちていたのだろう。彼を一目見た、その瞬間から…… だから僕は見ないふりをしたんだ。 ページをめくる彼の左手の薬指に、光っていた物を…… .
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