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そして個展当日の日曜日。僕はアートフォーラムの前で彼を待っていた。そもそも来るかもわからないのに、開館前から待っている自分に内心苦笑しながら。
「よぉ!加賀美くん、だっけ?」
「あ……甲斐さん。」
ポンと肩を叩かれて振り向くと、彼の姿。僕は本当に来てくれた彼にちょっとビックリして、固まってしまった。
「どうした?」
「あ、あの……あ、来てくれてありがとうございます!」
焦ってお礼を言う僕を見て、彼はふわりと微笑う。その顔に心臓が高鳴った事は、気付かないふりをした。
「俺、こういうとこ来んの初めてだから朝から緊張してさ~ちょっと早く来すぎたかな。」
「大丈夫ですよ。今開いたばかりですから。」
「そっか。じゃ早速行こうか。案内してくれるだろ?」
「もちろんです!」
僕はそう言うと、彼を連れて中へと入って行った。
「すげぇ!個展ってこんな感じなんだ。」
「僕の先輩、この世界では結構有名で。すごいなぁ~、やっぱり。」
隣で感嘆の声を上げる彼は、しきりにきょろきょろと辺りを見回している。僕も先輩の絵を眺めながら、ため息を漏らした。
「君の絵は?」
「あ、そこの……」
少し離れた所にある僕の絵に案内する。近付いていくにつれ、僕は緊張で胸が張り裂けそうになった。
「ここです。」
「……すごいな。やっぱり君の絵、キレイだ。それでいて、とても悲しい。」
僕の絵を見上げる彼の横顔を、僕はじっと見つめた。
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