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第1話 偶然の出逢い
―――
「おかえり。」
「おぅ。ごめんな、急に来て。仕事が早く終わったからさ。」
「ううん、大丈夫。今日休みだったから、家でずっと絵を描いてたんだ。」
「そっか。いいの描けた?」
「うん!次の休みの日に色をつけるんだ。」
「出来たら見せて。」
「もちろん!邦宏くんに見せるために描いてるんだから。」
「楽しみにしてる。」
僕たちはそんな会話を交わしながら、リビングへと向かった。
僕の名前は、加賀美圭吾。一応画家だが、絵だけでは生活していけないため、近くの美術学校の臨時講師をしている。将来は一人前の画家になって絵だけで生きていくって思ってたけど、最近は学生に教えるのが楽しくなってきて、このままでもいいかな、なんて甘ったれた事を思っていた。
それでも休みの日にはこうやって、一日中家にこもって絵を描いている。
――いつからだっただろうか。自分の夢のためではなく、誰かのためだけに絵を描き始めたのは……
僕は、ソファーに座って上着の内ポケットからタバコを取り出す邦宏くんを見つめた。
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