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「場所わかった?」
「ああ…うん。ありがとう」
「良かった。ちょっと不安だったから、ちゃんと新しいの持ってくるか、待ってたの」
「えっ…ああ…それは、どうも」
「『はじめてのおつかい』ってテレビであるでしょ。あの番組で、子どもを送り出した時の親の気持ちってこんな感じなのかなー」
ぽんぽん飛んでくる言葉が、僕にとってはどれも変化球のように感じる。投げられた球はちゃんと返さなきゃ、そう思いはするものの、運動音痴でコミュニケーション音痴な僕にはやっぱりレベルが高い。
そうこう考えているうちに、市來さんはまた委員長の顔に戻って「ちりとり、しまう前にクラス名書いて。あと点検表ね。扉の裏に引っかけてあるのは知ってるよね」と指摘した。
皆が使うから丁寧に見やすいように、と意識してちりとりに書いた「3–2」は、意識しすぎたせいかぶるぶると震えた字になってしまった。
自分の下手くそな字にため息をついたら、「そんなに緊張しなくてもいいのに」と市來さんに笑われてしまった。自分だけにしか聞こえない静かな吐息のつもりだったけれど、教室ががらんとしているせいか、思った以上に響いてしまったのかもしれない。
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