【3】

12/16

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
「…ビニール傘」 「ん?」 「何で、いつもビニール傘なの」 「…えっ」  振り返った市來さんの顔には、まさに、きょとん、と書いてあった。きょとんの模範解答のような表情だった。  でも、だからこそ僕は、しまった、とすでに後悔し始めていた。  やっぱり、こんなこと聞くんじゃなかった。特別な理由なんて、きっと存在しないのだ。コスパがいいから。傘を差していても前がよく見えるから。理由があったとしても、きっとそれくらいだろう。  大体、よくよく考えてみれば、とても失礼な質問のような気がしてきた。何でそんな安っぽい傘を毎日使ってるの。そんな風に受け取られてしまってもおかしくない。  もちろん僕からしたら、そういう意味は一切含んでない。ただ、他に理由があるのなら知りたいというだけだ。悪意なんてない。単純で、純粋だ。  ああ…これじゃまた堂々巡りだ。本人を目の前にしても、また僕は同じことをぐるぐると考えている。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加