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「…びっくりした」
きょとんとして、目を丸くしていた市來さんの顔が、少しずつほどけていく。僕の気のせいじゃなければ、その瞳に小さな輝きが生まれているようにも見えた。市來さんは、笑っていた。ひとまず、気を悪くはしていないことに、僕はほっとした。
「それ聞かれたの、初めて」
「ご、ごめん。変なこと聞いて」
「ううん、謝らないで。むしろ嬉しいの。なんか、すっごく嬉しい」
恥ずかしがるような、はにかみ方だった。
こんな反応が返ってくるとは思っていなかったから、僕は反射的に市來さんから目をそらした。何故だか、直視できなかった。
「…嬉しいの?」
「うん。自分でも、なんか…変な感じ。こんなに嬉しいものだなんて」
「…理由、あるの?」
「ビニール傘を使う理由?」
「うん」
「あるよ」
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