【3】

14/16

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
 窓枠に背を預けて、手を後ろに組んでいる市來さん。  はじめてのおつかいから帰ってきて、親からのごほうびを待つ子どもの気持ちが、少し分かるような気がした。おあずけ状態の僕。いや、これは例えが変か。 「知りたい?」 「…うん」 「気になる?」 「うん」 「…っていうか、河野くん、私のこと観察してたの?」 「えっ、あ、いや…あの、朝の電車がたまたまいつも同じで」 「そんなに慌てなくてもいいのに。同じ電車なのは私も気付いてたよ」  何と言うか、敵わない、と思った。市來さんのほうが、あらゆる意味で一枚、いや二枚も三枚も上手(うわて)だ。翻弄されているような気持ちになった。 「特別に教えてあげる」  そう言いながら、市來さんは再び席に戻り、机の上の教科書やノートをカバンの中にしまい始めた。明らかに、帰る雰囲気だった。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加