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窓枠に背を預けて、手を後ろに組んでいる市來さん。
はじめてのおつかいから帰ってきて、親からのごほうびを待つ子どもの気持ちが、少し分かるような気がした。おあずけ状態の僕。いや、これは例えが変か。
「知りたい?」
「…うん」
「気になる?」
「うん」
「…っていうか、河野くん、私のこと観察してたの?」
「えっ、あ、いや…あの、朝の電車がたまたまいつも同じで」
「そんなに慌てなくてもいいのに。同じ電車なのは私も気付いてたよ」
何と言うか、敵わない、と思った。市來さんのほうが、あらゆる意味で一枚、いや二枚も三枚も上手だ。翻弄されているような気持ちになった。
「特別に教えてあげる」
そう言いながら、市來さんは再び席に戻り、机の上の教科書やノートをカバンの中にしまい始めた。明らかに、帰る雰囲気だった。
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